資本主義卒業試験/山田玲司

資本主義卒業試験 (星海社新書)

資本主義卒業試験 (星海社新書)

資本主義社会での絶望と、少なくとも資本主義社会に取り込まれないようにするための方法の一つを描いている本、ほぼ漫画。


資本主義社会に対して漠然と感じていた不安に、実際にこういうことが起こるのだという話を与えられることで、知らなかったこと、気付いていたけど気付かないふりをしていたことに目を向けさせられたことは、読んだ意味があったかな、という感じ。


答えが出せないことは仕方ないように感じるけれど、やはり提示されている答えは、単なる理想にすぎないように思う。
結局成功した国で暮らしている人間の思い描く理想にしか見えない。
じゃあどうするかを考えさせるための本というには、ほぼ全編に渡る資本主義の悪夢で恐怖を与えて、さぁ競争でも何でもして答えを出せという、抜け出したい資本主義の手法を抜け出すために使うという不合理を起こしている。
守るべき3つのものを挙げていたけれど、それを守りたければ自分だけが変われば良いわけじゃない。
社会や世界を変えなければ守れない。
そのためには、今この瞬間に存在している格差を無視することはできなくて、そして基本的にこの本は富んでいる立場を取っているのだから、貧しい立場に何かしら規制をかけるという段階が必要になる。
けれど、どうやったってそこに反発が生まれることは避けられないんじゃないだろうか。
生まれた反発は、どのようにして抑えるのか、そもそも抑えないのか。
それらに対処できるだけの解答が用意できない限り、理想論、ただ気付いたことの一瞬の満足感に浸るだけで、何の解決も産まないし、結局消費を重ねて資本主義の卒業なんてできるはずがない。
にっちもさっちもいかない、みたいな言葉はこういう時のためにあるんじゃないか、ってくらい、どうしようもない状況としか思えない。
そういう事を考え始めると、やっぱりお話として、新書として、ちょっとお粗末じゃないかなと感じた。
ただとにかく悪いのだ、とだけ書いている方が良かったんじゃないだろうか。


あとは、成長は、ただ資本主義による要請であって、人間が生きていくためには必ずしも必要なものではない、という意見には大いに賛成したいというか、そういう風に思う人もいるんだねと、ちょっと安心が得られたのも、読んで良かったところ、かな。


そしてこういうものを読んで改めて、自分は消費し続けていくのだろうなと感じた。
それが資本主義を加速させることに繋がろうと、自分では解決できないように感じてしまっている。
たぶん自分の生きている間に解決するための環境が揃わないんだろうな、とかね。


もう一度読む必要はない、でしょう。